◆イノベーションはプロセスに宿る

現代の企業において、イノベーションへのチャレンジは避けて通ることができない重要な課題です。

デザイン思考で有名なIDEO社の創業者であるデビッド・ケリーは、イノベーションを興すための「プロセス」を手に入れてしまえば、あとは、どんな分野であってもイノベーションは可能だと言い切ります。

ABC Nightline IDEO Shopping Cart(日本語字幕付き)

イノベーションは特定のテクノロジーの活用などからも誕生しますが、VUCAと呼ばれる不透明な時代においては、どんな分野でもイノベーションを見いだせるプロセスがあることは、企業にとって最も重要な資産なのです。


◆イノベーションプロセスをデザインする

一般的に、プロセスとは「工程」や「手法」の組み合わせによる「フレームワーク」だと考えられていますが、これは、少し誤解があります。イノベーションプロセスをデザインするためには、この「プロセス」という存在を正しく理解することによって効果的にデザインできるようになるので、少しだけ「プロセスとはなにか?」について解説します。

「プロセス」とは、「組織」という集団でなにかの目的や目標を実現・達成しようとする際に、これを効果的・効率的に進めていくための「包括的な仕組み」です。

集団には様々な背景と考えを持つひとが集まりますから、この包括的な仕組みがなければ、各自が思うがままに目標の達成手段を考え、結果的には集団がバラバラになる可能性があります。これをひとまとめにする仕組みを構築するのが「プロセス」という存在なのです。

一般的に、企業は既存のビジネスからの収益・利益を最大化するためにプロセスが設計されているため、イノベーションを興すための「包括的な仕組み」は確立していません。イノベーションを興したいと思ったら、新たにイノベーションに適した「包括的な仕組み」を構築しなければならないのです。

組織がイノベーションを興すという目的・目標に対して「ひとまとめ」になるためには、いったいどういう「包括的な仕組み」を作ればいいのか。これが問題です。

一般的にプロセスだと理解されている「工程」や「手法」「手順」といったものが必要なのはもちろんですが、イノベーションという特殊な目的・目標は、これだけでは実現しません。

例えば、集団に属するヒトたちの考え方、つまり「思考」がひとまとめになっていることも必要なのです。

企業の活動は基本的に「営利」を目的としていますが、イノベーションを興すという目標を実現するには、一時的であれ、営利の拡大より社会的なインパクトの拡大を優先するという「思考」に基づいて作業を進める時間帯が必ず存在します。これがいつなのかを、集団の中のヒトたちが、同じ考えや判断を下せるようになっていなければなりません。

これらは、工程や手順でコントロールできると思うかもしれませんが、集団をひとまとめにするというのは、残念ながらそんなに簡単にはいかないのです。

ヒトの思考は、工程や手順によってコントロールされるのではなく、工程や手順が、ヒトの思考によってコントロールされます。

手順がヒトの思考をコントロールできない具体的な事例をひとつ紹介すると、2021年に「不透明な後任会長の選任。プロセスの透明性が求められている」という見出しのニュースが話題になりましたが、この場合も当然、後任人事の進め方は「定款」というルールブックに記載されていました。しかし、一部のヒトが、自分はこのルールブックに従う必要がないという「思考」のもとで行動を起こした結果、いとも簡単にルールは破られそうになったのです。

公共の利益のために設立された「集団」でも、思考が統一されなければ、個人の判断が優先されてしまうという典型的な事例です。

こうした個人の思考は、どのように「ひとまとめ」にされるかというと、それは「文化」や「環境」によって方向づけされます。

わたしたちが日々生活するなかで、仮に法律というルールブックには記載されていなくても、一般的な社会規範にそって生活することができるのは、そういう文化と環境のなかで生活をしているからです。

ヒトの思考は、文化や環境と密接な関係にあり、相互に影響し合うものなのです。

つまり、プロセスという包括的な仕組みとは、次の要素の組み合わせだと言えます。

  • ヒトの思考
  • これを支える文化や環境
  • 目的・目標を実現する工程や手法・手順
  • そして実際の目的・目標
図:プロセスの構造

これらの要素が「同じ方向性に対してひとまとめ」になったとき、初めて「プロセス」は集団を前に推し進める効果が発揮されます。

逆に言えば、これらの要素が「ひとまとめ」になっていなければ、プロセスの一部をある目的に最適化しても、最終的な目的・目標の実現・達成を推進する効果は得られないのです。

プロセスという存在を図に表してみると、「ひとまとめ」であることの重要性がよく分かります。

図:プロセスの最適化と不整合

逆に言えば、IDEOという企業では、文化や環境と、そこに属するヒトの思考がイノベーションの実現に最適化されているからこそ、様々な手法によって、最も高い効果を得ることができるのです。


◆大企業はどうすべきか?

Googleの元CEOエリック・シュミットは、書籍『HOW GOOGLE WORKS』のなかで、「創業したばかりの会社で新しい文化をつくるのは比較的簡単だ。だが、既存企業の文化を変えるのはとほうもなく難しく、かつ成功に欠かせない」と、いちど既存ビジネスに最適化された文化をもつ大企業で、改めてイノベーションプロセスをデザインする難しさを語っています。

既存ビジネスに適した人材、文化、環境が揃っている状態から、これを入れ替えるのがいかに難しい作業であるのか、誰もが理解しています。スタートアップと大企業では、文化や環境が両極的過ぎるため、ただ手法をマネしても成果にはならないのです。

ですが、大企業が目指すべきイノベーションのありかたは、なにもスタートアップの追従ばかりではありませんし、イノベーションを「ひとつ」実現できれば良いということでもありません。

エリック・シュミットは、Googleがイノベーションに最適化された文化や環境にこだわるのは、実は優秀な人材を獲得するためだと明かしています。良いイノベーション環境は優れた人材を呼び寄せる効果があり、悪い環境には逆の効果(悪い環境からは優秀なひとから離れていく)があります。

何をすれば良い仕事をしたと言えるのかがますます不透明になる時代に、自律的に良い仕事がどのようなことなのかを考えることができる人材を確保するには、自分自身が成長できる環境で働くことを望んでいるひとを満足させるプロセスが必要です。

イノベーションプロセスを導入する理由は、直接的にイノベーションを産み出すだけではないのです。

さらに、このようなイノベーションプロセスを手に入れた企業には、優れた「顧客」が彼らの方からやってくるという現象を何度も目にすることがあります。

例えば、現場を観察するために顧客候補のもとを訪れるイノベーションメンバーは、一向になにかの商品を売り込む気配がないどころか、回数を重ねるごとに自分たちが抱えている課題の本質を理解してくれるようになります。すると、やがて彼らの方から、思いがけないイノベーションの種(顧客が抱える課題:ただし、依頼主もイノベーションになるとは気づかずに)を託してくるということが、少なからず起こるのです。

イノベーションの種、つまり優れた人材や解決すべきかくれた課題は、優れたイノベーションプロセスに集まって来るという性質があります。

良いプロセスには「ヒト」と「アイディア」が集まります

スタートアップのような文化や環境がないからといって、イノベーションプロセスを諦めてはいけないのです。


◆Process Design Inc.のアプローチ

このような考えに基づいてイノベーションプロセスをデザインすると、必然的に、企業独自のオリジナルプロセスになっていきます。

IDEOにイノベーションデザインのプロセスがあるように、Process Design Inc.には、このオリジナルプロセスをデザインする「プロセス」があります。私たちにとっても、クライアントの期待以上の成果を挙げるためのプロセスは重要なのです。

Process Design Inc.のアプローチはブログで詳細を公開しています。ぜひこちらを御覧ください。※随時更新中

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